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東京試合役員会議事録
日時:平成28年8月23日(火) 18:30〜
場所:JBC本部事務局
出席者
レフェリー:安部、サラサス、葛城、杉山、中村、染谷、飯田、山岸、寺山、
      弥富、ジョン
アナウンサー:冨樫、須藤、小村 
タイムキーパー:高橋、松原、伊藤、野中、藪亀
進行:岩本
スーパーバイザー:熊崎
コミッションドクター:大槻先生
JBC:浦谷、羽生

試合における事故の根絶について
 会議冒頭、事務局より今年開頭手術を行った2選手(4月12日横山哲成、7月12日島倉裕矢)の経過報告がなされた。
 試合役員会としてリング事故の根絶につき様々な意見が活発に交換された。

■レフェリーのストップにかかわる意見交換
1.キャリアが長く、ダメージの蓄積が心配された選手を担当した際、その選手のカットを理由にかなり早くストップしたことがある。もう少し試合を継続させるべきかとも考えたが、ダメージの上積みを無くすためにも相当早めのストップとした。観客は大きなフラストレーションを感じただろうが、事故を防ぐため、選手の引退後の事も考え早めのストップを決断したが、その判断が正解だったのか今でも迷うことがある。
2.判断基準は個々の試合で変わってくるもの。
「選手の利益」 勝つために最大のパフォーマンスを発揮する。
「観客の利益」 打撃戦を観て楽しむ。
「レフェリーの役割」 試合をエンターテイメントとして治めながらの安全管理。
この三つがうまくまとまるのが理想だが、選手や観客の利益が棄損されてもレフェリーの役割である安全管理を優先しなければならない時がある。レフェリーの役割とは、すなわち選手を無傷とはいかないまでも自分の足でリングから降ろすことに尽きる。白熱した試合ほどストップしづらくなるものだが、試合後半は選手の消耗度も激しくなる。最終回ではこれ以上は危険と判断すれば観客の利益を度外視してでも試合終了のゴングを待つことなく躊躇することなくストップすべき。試合展開が一方的でポイント的にも大きな開きが予想される試合後半などは、確かに一発逆転のチャンスが無い訳ではないが、その時点で試合をストップしてもやむを得ない場合もある。選手は試合中、精神が肉体の限界を超えることがあるので、選手の顔の表情などを注意深く観察することも重要である。
3.選手の「頑張り」に注目するあまり、レフェリーとして俯瞰的な判断が出来なかったことがある。ダウンも無くしっかりガードを固め打ち合っている展開では、頑張る選手の気迫などにより、合い間、合い間に受けるパンチのダメージを見極めることが難しくなる可能性があるので気を付けなければならない。
4.試合毎に判断基準を変えないことが重要。ファンの声援の多寡、ランキングボクサーか否か、タイトルマッチか否か、でストップする判断の基準を変えるべきではない。
5.攻撃が単調で連打がなく、単発のパンチが何度も同じように当たっている場合など、なかなかストップするタイミングを見つけられないことがある。
6.3ノックダウン制を適用しないことになってから、ストップするタイミングが遅くなっているように思える。様子を見る機会が増えたからだろうか。気をつけなければいけないだろう。

■ドクターの意見
1.観客の利益(エンターテイメント)と医学的見地は相容れない部分が多い。
2.平均するとボクシングは年に1〜2回の頭蓋内出血(リング事故)を起こしているが、こんなに頻繁に事故が起こっているスポーツは他に無い。
3.お客さんが喜ぶ試合(選手が極限まで頑張る試合)ほど危険が多い。
4.ダウンの際、手も付かずに体ごと倒れこむような意識障害を起こすダウンは危険である。
5.1000回の早すぎるストップで、1例でも事故を防ぐことが出来れば良しと考えるべき。
6.スポーツを行うにあたって、管理する者には危険の「予見義務」があり、危険が予見されればその「回避義務」が生じる。危険が予見されているにも関わらず、その危険の回避義務を怠れば責任を問われることがある。
7.頭部外傷には「急性期」と「慢性期」があり、通常のリング事故は「急性期」にあたる。「慢性期」の頭部外傷は、いわゆるパンチドランカーと呼ばれ、アルツハイマーやパーキンソン病の所見と非常に似ており、うつ病などの精神疾患を併発し自殺などに結び付くこともある。
8.「慢性期」の場合、デビューから引退までのキャリアの長さに依拠するところが大きい。よって戦績にKO負けなどが無くとも注意しなくてはならない。U―15など幼少期からボクシングに取り組ませる場合、パンチによる脳震盪には十分な注意が必要なのは言うまでもない。また、ボクサーの年齢制限引き上げの要望があるようだが、上記の理由から慢性脳損傷の危険性を否定することは出来ない。
19.WBCの場合、KO敗した選手にはダメージの有無に関わらずCT検査を義務付けている。JBCでは3連続KO敗、もしくは4連敗は120日の出場停止と復帰に際してのCT受診を義務付けてはいるが、CT検査をクリアしてしまうと、どんなにダメージが心配される選手であろうと引退させる規定が存在しないので、試合出場をストップすることは出来ない。だからと言って何もしないと危険の「回避義務」を怠っていると指摘されることがあるので、事故防止対策に尽力していることは内外にアピールしていかなければならない。
10.KO敗の選手は全員、あるいは試合前には必ずCT受診を義務付ける対策などは有効だと思うが費用の問題があり実現には協会との協議が必要だろう。
11.試合出場選手に、試合に先立ちボクシング競技を行うにあたって頭蓋内出血や慢性脳損傷のリスクを認識している承諾書等の文書を提出させることを検討してはどうか。法律的には責任回避の効力は無いが、「事故が起こるなど夢にも思っていなかった。そのリスクがあるなら何故事前に言ってくれなかったのか」と言ったトラブルは避けられるだろう。
12.事故が起こった際、その責任の所在の問題もさることながら、動揺した家族の感情的な問題でトラブルとなることもある。JBC、協会の垣根を超え、ボクシング界全体でフォローしていくことが重要である。

■レフェリーのストップにかかわる意識の確認
1.レフェリーが選手と接するのは試合当日のリングの上だけである。日常的な飲酒の有無、スパーリングの程度と頻度、減量の期間と量などは知る由もない。だからこそ早い段階から試合の展開を把握しなければならない。リング事故はラウンド後半で起こることが多いというが、試合の序盤で既に出血が始まっている場合などは、いくら早めのストップをしても意味がない。試合に入れ込んでいる選手はたとえ試合中に頭痛があったとしてもその旨を申告しないことが多い。
2.レフェリーがコントロール出来ることと出来ないことを分けて考えた方が良い。リング事故の8割近くは試合後半(3/4以降)に集中していることを鑑みれば、採点上において点差が開いている場合などは、逆転KOの可能性などをあまり考慮せずストップすることが重要である。また打ちつ打たれつの激しい打撃戦などでは、試合後半になるほどダメージの蓄積は大きくなる。「止められない」、「止めるタイミングが無い」ではなく、このような場合、どちらかがパンチをクリーンヒットされた時点で、ダメージの有無が見て取れようが取れまいが、勇気を持ってストップすることが事故を防ぐために重要であると考える。
3.試合当日の選手のコンディション(状態)を熟知しているセコンドには、試合中のタオル投入や、インターバルでの棄権の申し出など、レフェリー以上に選手を守る意識を持ち事故防止に協力してもらいたい。
4.試合前のミーティングでは現在、選手の年齢、戦績、ブランクなどの情報の提供を受けているが、直近の試合で強い脳震盪を伴うKO負けを喫している情報なども併せて提示してもらえたら有り難い。
5.ダメージの蓄積をデータ化するために、クリーンヒットされた数をチェックカウンターでカウントし、健康カルテに記入しておくという方法も一考してはどうか。
6.ダメージの蓄積という観点からすると、打たれ強い選手はかえって危ないと言えるかもしれない。早い回の一発パンチでのKOの方がかえってダメージが早く抜けて残らないのでは、という説も聞いたことがある。
7.主に傷(カットや腫れ)による続行不能のストップの際は、ドクターチェックをうまく利用するこが有効。1〜2回ドクターのチェックが入れば、そろそろ(あるいは次は)ストップされるだろうとセコンド陣営や観客は試合ストップを予想できるので、唐突なストップ感によるフラストレーションを排除できる。これはなかなかストップし難い試合展開における、ダメージによる試合ストップにも応用できるだろう。

■レフェリー判断のサポート体制の構築
 「ラウンド中における対応」
 レフェリーがストップする権限を持つ唯一の存在である以上、レフェリーの判断がまず第一に尊重されなければならない。コーナーインスペクターやジャッジ、スーパーバイザーがそれぞれ異なる意見をレフェリーに対し進言した場合など、混乱の要因となり得るだろう。この場合、やはりスーパーバイザーの意見が重要となってくる。

 「ラウンド間における対応」
1.これまでも、インターバルにおいてスーパーバイザーがレフェリーに対し、「そろそろストップしては」などの目配せをすることはあった。またはインターバルにドクターチェックを仰ぎダメージへの懸念をレフェリーへ伝えるなどしてきたが、これからも継続して対応していくことは重要である。
2.レフェリーがインターバルで、選手に次ラウンドを告げに行く際、「これ以上パンチをもらうようならストップするからな」などの声掛けをすることは、レフェリーとセコンド双方の、選手のダメージに対する認識の一致を図るという観点からは有効と思える。
3.インターバル中に選手に対し、「大丈夫か?」「まだやれるか?」などの声掛けはあまり意味がない。選手はほぼ全員必ず、「大丈夫です」、「やれます」と回答するもの。選手に直接試合続行の可否を問うことは無意味だろう。

■JBCから
1.今年より、「3ノックダウンルールは採用しない」こととしたが、これを「フリーノックダウン」と解釈しないで欲しい。フリーノックダウンと解釈すると、何度ダウンしてもOKと考えがちになり、ストップするタイミングを見誤ることが起こりやすい。「3ノックダウンルールは採用しない」とは、例え1度目のダウンでも、ダメージが見て取れたら即ストップするという意味で解釈して欲しい。
2.痛烈なKO敗や担架搬送された選手などは、試合後のCT検査のほか、次戦の試合前CT検査なども義務化することを検討したい。選手にとっては費用的に厳しいことは承知しているが、リング事故を根絶させるためにはやむを得ないと考える。
3.近時、試合中レフェリーが両選手の状態をしっかり見ながらレフェリングしていると感じることができ、とても良い傾向である。試合展開に集中しすぎると、選手の頑張りばかりに目が行き、ダメージの見極めが困難になることがあるので、時に選手から離れた位置につき、広い視野で選手や試合を俯瞰することが重要である。
4.リング事故防止の意識啓蒙が重要と考える。「ボクシング事故防止啓発月間」などの啓蒙活動などを通し、ボクシング業界のみならず、一般のファンに対しても意識の共有を図っていきたい。 そのためには試合会場に啓蒙のためのポスターを貼るなど周知の徹底を図ることが重要と考える。

以上